M&A仲介とは何か 中小企業庁の登録制度で見る役割
M&A仲介とは、譲渡側企業と譲受側企業の双方の間に立ち、成約に向けた調整や助言を行う事業者を指す。中小企業の事業承継や事業売却の場面で使われる手法の一つである。
中小企業庁は令和3年8月、M&A支援機関登録制度を創設した。中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤づくりを目的とする制度である。登録の対象にはFA(ファイナンシャル・アドバイザー)と仲介業者の双方が含まれる。
令和8年2月20日時点で、登録M&A支援機関は累計3,235件にのぼる。内訳は法人2,488件、個人事業主747件である。
M&A仲介の業界団体としては、M&A支援機関協会が活動している。同協会は2021年10月1日、一般社団法人M&A仲介協会として設立された。2024年9月19日には、名称を現在のM&A支援機関協会に変更した。
M&A仲介に不安を感じるのはなぜか 中小M&Aガイドライン改訂の背景
経済産業省・中小企業庁が「中小M&Aガイドライン」を第3版へ改訂した背景には、不適切な譲受者によるトラブル、経営者保証をめぐる問題、そしてM&A専門業者の過剰営業への対応がある。国が制度の側で手を入れた論点は、会社を譲る側が身構える場面とそのまま重なる。
譲り渡す側の不安は、次の3つに整理できる。
- 価格:譲渡額を安く見積もられるのではないか
- 情報漏洩:検討段階の話が従業員や取引先に伝わるのではないか
- 相手選び:譲った後に会社と従業員を大切にしない相手だったらどうするか
3つ目は想像上の心配ではない。経営が苦しい中小企業を買収した後、経営者保証を外さないまま連絡を絶つ買い手の事案が実際に発覚している。
本記事では、この3つの不安をそのまま見出しに立て、それぞれM&A仲介のどの仕組み・どの契約条項が歯止めになるのかを対応させて説明していく。
不安1「買い叩かれるのでは」→ 利益相反を防ぐ仕組み
中小M&Aガイドライン第3版は、不適切な譲受者によるトラブルや経営者保証の問題、M&A専門業者の過剰営業への対応を背景に改訂された。その中で、譲受側から追加手数料を得て譲渡額を不当に低く誘導する行為や、優先的にマッチングする行為を利益相反の典型例として明示している。リピーターや追加手数料を支払う相手を優遇する行為も、禁止される利益相反行為として具体化された。
M&A専門業者には、契約締結前に手数料体系などの重要事項を記載した書面を交付し、説明する義務がある。業界団体による自主規制も、この仕組みを補完している。
2023年12月15日の日本経済新聞報道によると、M&A仲介協会は業界で初めて倫理規定を策定し、会員企業に手数料体系のウェブ開示を義務付けた。同記事によると、この自主規制は特定の買い手から追加手数料を得て優先的にマッチングする行為など5つの利益相反行為を禁止している。
ガイドラインが挙げる利益相反の典型例と、それに対応する歯止めを次の表に整理する。
| 利益相反の典型例 | 対応する歯止め |
|---|---|
| 譲受側から追加手数料を得て譲渡額を不当に低く誘導 | 中小M&Aガイドライン第3版が禁止行為として具体化 |
| 追加手数料を支払う譲受側を優先的にマッチング | ガイドライン第3版・M&A仲介協会の自主規制で禁止 |
| リピーターや追加手数料を支払う者の優遇 | ガイドライン第3版が禁止行為として明記 |
| 手数料体系や重要事項の不開示 | 契約前の重要事項書面交付、仲介協会のウェブ開示義務 |
気になる仲介手数料の相場 レーマン方式と主要4社の比較
手数料の中身が見えないと、価格への不安は大きくなる。ただし主要な仲介会社は料金体系を公開しており、比較はできる。
日本M&Aセンターの成功報酬は、譲渡企業の時価総資産額のうち5億円以下の部分が5%、100億円超の部分が1%となっている。このように金額帯ごとに料率を下げていく計算方法がレーマン方式で、ストライクとfundbookも成功報酬の算定に採用している。
もっとも、料率をかける基準は各社で異なる。ストライクはオーナー受取額、fundbookは資産額を基準とし、いずれも一定額以下の部分については固定額を置いている。料率の数字だけを並べても、支払う実額の比較にはならない。
成約前に発生する費用にも差がある。M&Aキャピタルパートナーズは、中間金の相場を成功報酬全体の10〜20%程度と説明している。
| 会社 | 成約前の費用 | 成功報酬の基準と水準 |
|---|---|---|
| 日本M&Aセンター | ― | レーマン方式(時価総資産額が基準)。5億円以下の部分5%、100億円超の部分1% |
| ストライク | 着手金無料。基本合意締結時の報酬は資産総額に応じ最大300万円 | オーナー受取額レーマン方式。譲渡金額4億円以下の部分は一律2,000万円 |
| fundbook | 着手金・中間金は原則無料 | レーマン方式。資産額5億円以下の部分は2,500万円(固定) |
| M&Aキャピタルパートナーズ | 中間金の相場は成功報酬全体の10〜20%程度と説明 | ― |
面談の場では、料率そのものより「何を基準に計算するか」と「成約前にいくら出るか」を確認しておくと、後から金額が想定とずれにくい。
不安2「情報が漏れるのでは」→ 秘密保持契約の範囲
「検討していることが外に伝わったらどうなるのか」。この不安は、秘密保持を誰に対してどこまで守るのかという範囲の問題に置き換えると整理しやすくなります。判断の基準になるのが、経済産業省・中小企業庁が2024年8月30日に第3版へ改訂した中小M&Aガイドラインです。
同ガイドラインは、秘密保持の対象を社外の第三者だけに限っていません。親戚や友人、そして社内の役員・従業員に対しても、知らせる時期と内容に十分注意すべきだとしています。気をつける相手は社外にとどまらず、身近な人ほど開示のタイミングを設計する対象になる、という考え方です。
この基準は、仲介会社側の心がけで終わるものではありません。M&A支援機関登録制度に登録を申請する際は、現行の第3版を確認したうえで遵守を宣言することが必須の手続きとされています。相談先を選ぶ段階では、遵守宣言をしている業者かどうか、役員・従業員へいつ何を伝える想定なのかの2点を、契約前に確かめておくと安心です。
不安3「信頼できない相手に譲ってしまうのでは」→ 専任契約・テール条項という歯止め
「変な相手に会社を渡してしまったらどうしよう」という不安は、根拠のない心配ではない。経営が苦しい中小企業を買収した後、経営者保証を外さぬまま連絡を絶つ不適切な買い手の事案が確認されており、茨城県のある買い手は2021年以降で約30社を買収していた。
こうした事態を防ぐ仕組みの一つが契約期間の上限である。専任条項を設ける場合、契約期間は最長でも6か月〜1年以内が目安とされる。特定の仲介会社への依頼を、長期間縛られない期間に区切る仕組みである。
契約終了後も一定期間、仲介会社を通さず直接契約すると手数料が発生する「テール条項」は、最長2〜3年以内が目安であり、対象は仲介者が関与・紹介した譲受側に限定すべきとされる。
日本M&Aセンターは中小M&Aガイドライン第3版の遵守を宣言し、契約締結前に17項目の重要事項を記載した書面を交付して説明するとしている。テール期間も最長2〜3年とし、対象は実際にネームクリア(名称開示)された譲受側に限定している。
| 項目 | 定義 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 専任条項 | 特定の仲介会社・FAにのみ依頼を固定する契約条項 | 最長6か月〜1年以内 |
| テール条項 | 契約終了後も仲介者経由の相手との直接契約に手数料が発生する条項 | 最長2〜3年以内(対象は仲介者が関与・紹介した譲受側に限定) |
不安を解消したら次にすること
民間M&A仲介会社を通じた中小M&A件数は、2014年度の260件から2023年度には4,681件へと増えた。約18倍の水準である。
数字を確認したうえで、次に検討すべきは自社の状況に合わせた具体的な進め方である。契約までの具体的な流れを先に把握しておくと、次の一歩をイメージしやすくなる。会社を売る流れでは、初回相談から成約までの流れを確認できる。
自社が今どの段階にあるかを把握するには、無料相談・譲渡診断(秘密厳守)への申込みが具体的な第一歩になる。
