会社を売る5つのステップ全体像と各段階でかかる期間
会社を売る手続きは、①相談・仲介契約、②秘密保持契約(NDA)とマッチング、③トップ面談と意向表明、④基本合意とデューデリジェンス、⑤最終契約とクロージングの5ステップに整理できる。中小企業庁の中小M&Aガイドラインも、この流れをフロー図で示している。意思決定に始まり、仲介者・FAの選定と契約、バリュエーション、譲り受け側の選定、交渉、基本合意、デュー・ディリジェンス、最終契約、クロージング、ポストM&Aという順序である。
flowchart TD A[ステップ1 相談・仲介契約] --> B[ステップ2 NDAとマッチング] B --> C[ステップ3 トップ面談と意向表明] C --> D[ステップ4 基本合意とデューデリジェンス] D --> E[ステップ5 最終契約とクロージング]
期間の見通しとして、希望する譲り受け側とのマッチングには通常数か月から1年程度を要すると見込まれる。相手が現れる時期に左右されるため、着手した段階で完了時期を決め打ちすることは難しい。
背景となる数字も押さえておきたい。後継者不在率は2011年の38%から2023年には20%へ低下した。事業承継・引継ぎ支援センター経由のM&A成約件数は、2021年度1,043件、2022年度1,270件、2023年度1,558件と増えている。
5つのステップは一本道に見えるが、各段階には条件を確かめ、判断を保留したり交渉を取りやめたりできるタイミングがある。以降では、どの段階で何が決まるのかを順に見ていく。
ステップ1: 相談・仲介契約 ─ 契約期間と手数料を理解してから進める
相談先の候補は少なくない。M&A支援機関登録制度に基づく登録FA・仲介業者は、令和6年3月末時点で3,123件にのぼる。数がある分、1社目で即決せずに契約条件を読み比べる余地がある。
業界側の自主ルールも整備が進んだ。M&A支援機関協会(MAAA)の倫理規程は2024年1月1日に施行され、品位保持や利益相反への対処といった職業倫理を定めている。相談先がこうしたルールの下にあるかは、初回の面談で確認できる。
仲介契約・FA契約を結ぶ前に、次の3点を書面で確かめておきたい。
| 確認項目 | 押さえる内容 |
|---|---|
| 専任条項の期間 | 専任条項が設けられる場合、契約期間の目安は最長でも6か月〜1年以内とされている |
| 手数料の計算方法 | レーマン方式の計算例では、譲渡額1億円のとき1億円×5%×110%=550万円 |
| テール条項 | 契約終了後の一定期間(テール期間)内にM&Aを行った場合も、仲介者・FAが手数料を請求できるとする条項 |
3点はいずれも期間と金額で表せる。自社の想定譲渡額でレーマン方式を試算し、専任条項とテール期間の月数を書き出せば、複数社の条件を同じ土俵で比べられる。
ステップ2: 秘密保持契約(NDA)とマッチング ─ 情報開示の順番を知る
自社の情報は、一度に全部を出すわけではない。中小企業庁が公表する中小M&Aガイドライン(2024年8月30日版)は、譲り受け側への情報提供に順序を設けている。
最初に相手へ渡るのはノンネームシート(ティーザー)である。譲り渡し側が特定されないよう企業概要を簡単に要約した資料で、関心の有無を打診するために使われる。関心を示した相手が、より詳細な情報を入手するために結ぶ書面が秘密保持契約(NDA)にあたる。NDA締結後、実名や事業・財務に関する情報を記載した企業概要書(IM)が提示される。
社名が相手に伝わるのは、NDAを結んだ後である。ノンネームシートを渡す段階で迷いが残っているなら、その候補への打診を取り下げてよい。立ち止まる判断は、この段階でも遅くない。NDAは情報を守る約束であって、会社を譲る約束ではない。
候補の絞り込みには時間がかかる。同ガイドラインは、希望に沿う譲り受け側にたどり着くまで数か月、長ければ1年ほどを見込む。数週間で相手が決まらないことを、交渉の失敗と受け取る必要はない。
ステップ3: トップ面談と意向表明書 ─ まだ引き返せる段階
マッチングが進むと、譲り渡し側と譲り受け側の経営者が直接顔を合わせるトップ面談に移る。中小M&Aガイドラインは、トップ面談を譲り受け側の経営理念・企業文化や経営者の人間性等を直接確認するための場と位置づけている。従業員や取引先を引き継いでもらう相手として納得できるかどうか、書面からは読み取りにくい部分をここで確かめることになる。
面談を経て譲り受け側の関心が固まると、意向表明書が差し入れられることがある。意向表明書は譲り受け側が希望条件等を表明する書面であり、基本的には法的拘束力を持たないことが多い。法的拘束力を持たない書面であれば、記載された条件に法的に縛られることはない。
そのため、この段階はまだ引き返せる。相手の考え方や提示された条件に納得できないまま先へ進む必要はなく、検討をいったん止める選択も残されている。逆に、受け取った意向表明書のうちどの項目に拘束力が及ぶかは書面ごとに異なるため、記載を仲介者と一つずつ読み合わせておくと、後の段階での認識のずれを防ぎやすい。
ステップ4: 基本合意とデューデリジェンス(DD) ─ 拘束力が生じる範囲を線引きする
基本合意書は、交渉相手を特定の譲り受け側に絞った時点で、それまでの了解事項を確認する書面である。この書面のうち、法的拘束力を認めるのが通常とされるのは、独占的交渉権と秘密保持義務の2点になる。独占的交渉権は、その相手とだけ交渉を進めるという取り決めを指す。つまり、基本合意書に署名する前が、交渉相手を選び直しやすい最後の段階という位置づけになる。
基本合意の後に控えるのが、デューデリジェンス(DD)と呼ばれる調査である。中小企業のM&Aの場合、実施期間はおおむね1〜2か月程度が標準的とされる。調査は一括りではなく、財務DD・法務DD・税務DD・ビジネスDDといった種類に分かれる。このうち財務DDでは、決算書に表れていない債務、いわゆる簿外債務の有無などが確認項目となる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基本合意書の位置づけ | 交渉相手を特定の譲り受け側に絞った時点の了解事項を確認する書面 |
| 法的拘束力を認めるのが通常の事項 | 独占的交渉権/秘密保持義務 |
| DDの期間の目安 | 中小企業のM&Aでおおむね1〜2か月程度 |
| DDの種類 | 財務DD/法務DD/税務DD/ビジネスDD |
| 財務DDの確認項目の例 | 簿外債務の有無 |
ステップ5: 最終契約とクロージング ─ 契約後に何が起こるか
条件面で双方が合意に至ると、最終契約書を締結する段階へ進む。最終契約書には譲渡対象・譲渡時期・譲渡対価・支払方法に加え、表明保証条項や違反時の補償条項が定められる。表明保証条項とは、契約書に書いた内容が事実と相違ないことを相手方に約束する条項であり、相違があった場合の責任の取り方を補償条項が定める。いずれも締結後の負担に直結する部分のため、条項の意味を仲介者と読み合わせながら進めるとよい。契約条件を検討する際は、仲介手数料の相場も合わせて確認できる。
クロージングは株式等の譲渡や譲渡対価の支払いを行う、取引全体の最終段階である。手続きを完了させるには、対価が確実に入金されたことの確認が欠かせない。
契約締結後も、経営がただちに安定するわけではない。クロージング後にはPMI(会社を引き継いだ後の経営統合作業)が始まり、これに3か月〜1年程度を要することが多い。
事業承継やM&Aの具体的な進め方に不安がある場合は、無料相談・譲渡診断への申込み(秘密厳守)を活用するとよい。
