M&A仲介会社の選び方は「契約書の5条項」で判断する
M&A仲介会社の選び方は、会社の知名度や成約件数ではなく、提示された提携仲介契約書の条項単位でも判断できる。提携仲介契約書には、業務範囲・報酬・有効期間・秘密保持に加え、専任条項(排他的条項)や途中解約の可否・違約金の有無が記載される。署名によって効力が生じるのはこれらの条文そのものであり、契約書を提示された段階で一つずつ読み解く価値がある。
本記事は、契約締結前のチェックに絞り、署名前に確認したい5条項を次のとおり整理する。
| 条項 | 契約書で確認する文言 | 中小M&Aガイドライン第3版が示す目安 |
|---|---|---|
| 専任条項 | 排他的条項の有無と、その適用範囲 | ― |
| 契約期間・中途解約 | 有効期間と、途中解約の可否・違約金の定め | 専任条項を設ける場合は最長6か月〜1年以内。依頼者が任意の時点で中途解約できる条項を設ける |
| テール条項 | 契約終了後に報酬が発生する期間と、対象となる相手の範囲 | 最長2〜3年以内。対象は専門業者が関与・接触し実際に紹介した相手に限る |
| 報酬発生条件 | 報酬の発生時点と算定方法 | ― |
| セカンド・オピニオン | 第三者への相談を禁じる文言の有無 | 秘密保持義務のある専門家へのセカンド・オピニオンを認めるよう支援機関に求めている |
目安から外れた条文が入っていれば、その理由を仲介会社に確認する手がかりになる。次章以降で、5条項それぞれの確認ポイントを順に見ていく。
専任条項:他社に相談できなくなる範囲はどこまでか
専任条項は契約書で「排他的条項」とも表記され、依頼した1社だけに相手探しを任せ、他社への同時依頼を認めない定めを指す。どこまで縛られるかは会社ごとに異なり、契約書の文言でしか判断できない。
最初に見るのは、自分で見つけた相手の扱いである。専任契約であっても、依頼者自らが発掘した買い手候補とは仲介会社を通さず直接交渉できる場合があるとされる。この例外が書かれているかどうかを、書面で確かめておきたい。
次に直接交渉禁止条項の範囲を見る。あるM&Aアドバイザーの解説(個人の見解であり一次情報ではない)によれば、この条項は売り手と買い手が直接やり取りすることを禁じ、交渉事項を契約書に集約する目的で置かれる。誰との、どの段階の接触までが禁止の対象になるのかが要点になる。
では複数社に同時に頼める一般契約なら安心かというと、そうとも限らない。一般契約は情報管理が難しく秘密情報の流出リスクが高まり、成功報酬が専任契約より高くなる傾向があるとされる。専任か一般かという二択ではなく、例外規定の書きぶりで比べるほうが実務に合う。
締結前に確認する文言は次の3点にしぼれる。
- 自ら発掘した候補との交渉を例外として認める記載があるか
- 直接交渉禁止の対象範囲がどこまで及ぶか
- 違反した場合にどのような措置が定められているか
契約期間と中途解約:6か月〜1年を超える契約は理由を確認する
契約書の有効期間の欄に「1年間」「自動更新」とだけ書かれていても、その長さが妥当かどうかは比較対象がなければ判断できない。中小M&Aガイドライン第3版は、専任条項を設ける場合の契約期間について、最長でも6か月〜1年以内とする目安を示している。あわせて、依頼者が任意の時点で中途解約できる条項を設けることも求めている。
この2点は、仲介会社側の開示でも裏を取れる。M&Aキャピタルパートナーズは、専任条項の契約期間を最長6か月〜1年以内とし、依頼者がいつでも中途解約できる条項を設けると自社サイトで公表している。実務上も専任契約の期間は6か月〜1年が基本とされ、6か月を基本として最長でも1年以内が望ましいという見解もある。
提示された期間が1年を超えているなら、その根拠を尋ねる。合理的な説明がなければ、短縮を求める余地がある。
期間の数字と並んで、契約書では次の3点を確認しておきたい。
- 自動更新の有無:期間満了でいったん終了するのか、申し出がなければ同じ条件で延長されるのか
- 更新時の同意方法:書面での再合意を要するのか、黙示で更新されるのか。更新を断る場合の通知期限(満了の何日前までか)もあわせて見る
- 解約時の違約金:中途解約に金銭的なペナルティが紐づいていないか、その算定方法はどう書かれているか
中途解約の条項が入っていても、違約金が高額に設定されていれば実際には解約できない。条項の有無と、それを行使したときのコストは切り離して読む必要がある。
テール条項:解約後も報酬が発生する範囲を契約書で確定させる
テール条項とは、仲介契約が終了した後に成約した場合でも仲介会社に報酬が発生する取り決めを指す。契約書を読む際は「期間」と「紹介先の定義」という2つの争点を切り分けて確認する必要がある。
期間の目安から。中小M&Aガイドライン第3版は、テール期間を最長2〜3年以内としている。実務では業種や取引規模に応じて6か月〜最長3年程度で調整されるのが一般的である。3年を超える設定や、期間の記載自体がない契約書は理由を確認したい。
対象範囲はさらに重要になる。ガイドライン第3版はテール条項の対象を「専門業者が関与・接触し、実際に紹介した相手」に限定し、リスト掲載やノンネームの段階は対象外としている。ネームクリア済み(社名を開示して打診した状態)の譲受候補に限られ、社名を伏せた概要のみのノンネーム提示にとどまる相手は対象外となる。
| 相手先の状態 | テール条項の対象 |
|---|---|
| 仲介会社が関与・接触し実際に紹介した相手 | 対象になる |
| ネームクリア済みの譲受候補 | 対象になる |
| 候補リストに掲載されただけの相手 | 対象にならない |
| ノンネーム提示にとどまる相手 | 対象にならない |
この切り分けが曖昧だと、請求の根拠は際限なく広がる。候補リストに名前が載っていただけで「紹介実績あり」とされ、数千万円規模の請求を受けた事例が報告されている。契約締結前の交渉の有無や、テール期間内に成立したかどうかを含め、「紹介先」の定義を契約書に明記させることが重要である。
複数の業者が同一の候補先を紹介した場合の扱いも確認したい。M&Aキャピタルパートナーズは、この場合に手数料を請求しないと開示している。仲介会社を乗り換えて成約すると、前任会社のテール条項に抵触し二重に報酬が生じるリスクがある。乗り換えを検討する段階で、前任契約のテール期間と紹介済みの相手先を突き合わせておくとよい。
報酬発生条件:着手金・中間金・成功報酬が「いつ」発生するか
報酬は総額の多寡よりも、どの時点で発生し、破談したときに戻るのかという順で見ていきたい。成功報酬はレーマン方式(取引額の帯ごとに料率が変わる算定方法)で計算され、5億円以下の部分は5%、帯が上がるにつれて段階的に下がり最終的に1%とする料率表の例がある。
| 費用 | 発生時点 | 不成立のとき |
|---|---|---|
| 着手金 | 契約書で要確認(無料とする開示例あり) | 契約書で要確認 |
| 中間金 | 基本合意の締結時 | 返金されないことがほとんど |
| 成功報酬 | M&A成立後 | 支払い不要 |
中間金は基本合意の締結時に発生し、金額は成功報酬の10〜20%程度が相場とされ、その後に交渉が壊れても返金されないことがほとんどである。一方、成功報酬はM&Aが成立した後に支払う費用なので、不成立なら支払う必要はない。
着手金については、着手金を無料とし基本合意まで無料で支援すると開示している仲介会社もある(M&Aキャピタルパートナーズ)。無料をうたう契約でも、どの業務までが無料の範囲に含まれるのかは条文で確かめておきたい。
もう一点、成功報酬の算定基礎、つまり料率を何に掛けて計算するのかを契約書がどう定義しているかを確認したい。該当する定義が見当たらなければ、署名前に明記を求めるとよい。
セカンド・オピニオン条項:契約前に第三者へ相談できるか
渡された契約書の条項が妥当かどうかを、経営者が単独で判断するのは難しい。中小M&Aガイドライン第3版は、秘密保持義務のある専門家へのセカンド・オピニオン(別の専門家に意見を求めること)を依頼者に認めるよう支援機関に求めている。相談そのものを封じる契約書は、この求めから外れている。
相談先として有効なのは、法律で守秘義務が課された公認会計士や弁護士である。譲渡を検討している事実が外部へ漏れる懸念を抑えたまま、条項の書きぶりを第三者の目で確認できる。
締結後に問題が起きたときの相談先には限界がある。M&A支援機関協会の苦情相談窓口は会員事業者に関する苦情等を受け付けるが、紛争処理やADR(裁判外の紛争解決手続)を行う窓口ではない。この窓口だけで報酬の返還や条項の効力を争えるわけではない点は、契約前に把握しておきたい。
確認は締結前に済ませておきたい。「本契約に関して第三者に相談しない」と読める文言や、秘密保持条項が専門家への相談まで一律に禁じる書きぶりがあれば、守秘義務を負う専門家への開示を除外する旨の修正を求めるとよい。
契約書を渡された日にやること:5条項の確認手順
提携仲介契約書は署名した時点で効力を持つ。渡された日から署名までを、次の手順に区切って進めるとよい。
1. 契約書一式を受け取り、業務範囲・報酬・有効期間・秘密保持・専任条項・途中解約の可否と違約金が、どの条文に書かれているかを確認する。
2. 5条項の該当箇所に印をつけ、確認したい文言を余白に書き出す。
3. 不明瞭な箇所は修正を依頼する。口頭の説明で納得せず、契約書の記載自体を直してもらう。
4. 秘密保持義務のある第三者に契約書を見せ、意見を求める。
5. 修正版を受け取ったうえで署名する。
依頼者が任意の時点で中途解約できる条項が見当たらない、またはセカンド・オピニオンを禁じると読める文言がある契約書は、その2点を優先して修正を求める。どちらも中小M&Aガイドライン第3版が仲介会社に求めている内容である。
修正に応じるか、なぜその条項が必要かを説明できるか。この対応そのものが、M&A仲介会社の選び方における最後の判断材料になる。担当者個人を見極める観点は担当者を信頼できるかを確認する質問リストで扱っている。
契約書を前に判断がつかない段階でも構わない。署名の前に、無料相談・譲渡診断(秘密厳守)へお申し込みいただきたい。
